地球と宇宙の科学
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天空の女神 オーロラ



NHKスペシャル「宇宙の渚」第二集は、「天空の女神 オーロラ」。宇宙飛行士の古川さんが、国際宇宙ステーション(ISS)滞在中に出あったオーロラの美しい映像を紹介しながら、オーロラ発生のメカニズムや地球への影響などについて解説していた。

古川さんは、ISS滞在中に32回オーロラを見たという。オーロラの発生する高度は地上80キロから500キロの上空にかけて、ISSは400キロの上空にあるから、大部分のオーロラを、古川さんは上から見下ろす形になった。

オーロラは極地かそれに近い経度で見られるものかと思ったら、そうではないということだ。映像が映し出していたオーロラには、モスクワ上空やカナダ上空のほかに、サンフランシスコ上空にかかっていたものもあった。それらは、地上から見れば局所的なイメージとしてみえるはずだが、上から見ると非常に長い。平均3000キロの長さになるという。

このオーロラを更によく見ると、帯状ではなく円環状を呈しているという。なぜオーロラがリングの形を描くのか。

それは地球の磁場と関係があるという。オーロラとは太陽から放射された電子が地球の大気に衝突したときに発する光であるが、その大気には磁場のバリアが働いていて、それが地球を丸く包んでいる。それ故、太陽から来た電子は、このバリアに沿って丸くリングを描くのだという。

一方オーロラの色は、電子が衝突する大気の層の高度と関連しているという。高度が高いと赤い色になり、低いと紫色になる、その中間はグリーンになるといった具合だ。

だからオーロラは、磁場によって形を、大気層の光度によって色彩が決まるということになる。

ここで、オーロラという女神の登場とあいなる。オーロラと呼ばれる気象現象が、ギリシャ神話に出てくるこの女神の名を貰ったということは良く知られているが、そのオーロラとは、太陽神アポロを先導して、地上に光をもたらす女神であった。その女神と同じように、気象現象としてのオーロラも、太陽と地球との間を取り持つ役割を果たしているわけなのである。

ところで、オーロラの活動には周期がある。それは太陽の活動周期と連動している。太陽はほぼ11年おきに、活動が活発化したり、沈滞化したりの周期を繰り返しているが、太陽の活動が活発化するとオーロラの発生も増え、沈滞化するとできにくくなる。

来年は太陽の活動がもっとも活発化する年だから、オーロラの規模も大きくなると予想されている。

このオーロラが、地上に思いがけない影響を及ぼすことがだんだんわかってきた。1989年にはオーロラの影響によって北米で大規模停電が起こり、2000年には日本の人工衛星アスカがシステムダウンした。信号機トラブルで列車が正面衝突したカナダでの事故も、オーロラの誘導電流が地上の信号システムを攪乱した結果ではないかと疑われている。

ところで、来年ピークを迎える太陽の活動が、その先はかなり長い期間(数十年単位)に渡って、鎮静化するのではないかと予測されている。過去にも、太陽の活動周期が11年ではなく13年に切り替わった時には、その後長い沈滞時期が続いたことが観測されているが、今回も太陽は13年周期を記録した。そのことから、この予測がでてきたわけだ。

過去に、太陽が長い沈滞期に入った記録として、1659年からのものがある。この時太陽は約70年間にわたって活動が低下したのだが、その間、南仏でも夏に雪や雹がふり、テムズ川が凍ったという記録があるから、地球も相当に寒冷化したわけである。

この現象は、太陽が非活発化することの直接の結果かと言うと、そうではないらしい。通常は太陽からくる電子の作用によって遮られていた銀河宇宙線が、直接地球の大気圏にやってくるようになり、それが大気と衝突して分厚い雲を発生させ、その雲が太陽光線を遮断して地球を寒冷化させるのだという。

もしもこの寒冷化が実現するようだと、地球をめぐるエコシステムについても、大胆な思考の転回が必要となるだろう。

ともあれ、地球という星が、親星の太陽ばかりでなく、その外側に広がる広大な宇宙にも開かれているということを、この番組は、改めて感じさせてくれた。







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作者:壺齋散人(引地博信) All Rights Reserved (C) 2012
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