地球と宇宙の科学
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地球温暖化のツケ:グリーンランド溶解の恐怖


世界中の産業活動が排出する二酸化炭素によって、地球の温暖化が進んでいることは、近年になって危機感をもって論じられるようになった。また我々普通の人間でも、頻発する気象の異常やその結果としての災害の多発に接して、問題の深刻さをようやく気づくようになった。

科学者たちが最も憂慮するのは、地球の温室効果と温暖化が、グリーンランドや北極圏の巨大な氷原に壊滅的なダメージを与えることだ。もしこれらの氷原が溶解すれば、海面のレベルは現在より4−6メートル上昇し、モルディヴのようにフラットな島が水没するほか、ロンドン、ニューヨーク、東京といった海岸沿いの大都市も深刻な洪水に苦しむこととなる。その結果人類に甚大な損失が生じることは想像に難くない。

科学者たちはこれまで、このようなシナリオは起こるかもしれないし、幸運にして起こらないかもしれないと、やや歯切れの悪いいい方をしてきた。だが今や、そのようなことをいっていられる場合ではなくなってきたようである。

気象学者たちの国際組織Intergovernmental Panel on Climate Changeは、地球温暖化が予想を超える速さで進行していることを確認し、その結果もたらされるであろう地球の危機的状況を、近く各国政府に勧告する段取りだそうだ。勧告は今年の春になるということだが、それに先立ち、イギリス・ガーディアン紙が勧告の内容について取材した記事を載せた。“Climate change: Scientists warn it may be too late to save the ice caps;By David Adam”

報告によれば、地球の温度が1−2度上昇し、その結果、グリーンランドと北極圏の氷原が大規模な溶解を起こす可能性が高まっている。現在化学者たちが研究の素材としている各国政府のデータには、大規模な産業活動の実情が十分に盛り込まれておらず、二酸化炭素の排出状況が正確にとらえられていない。それらを網羅して再計算すれば、地球温暖化のスピードは考えられている以上に早くなるはずだ。早急に、正確なデータに基づく対策をとらないと手遅れになる。

アリゾナ大学の気象学者ジョナサン・オーヴァーペックは、今や、今や問題は北極圏の氷原の溶解が起こるかどうかということではなく、いつそれが起こるかということだと警告している。

ところで、北極圏の氷原の溶解は、海面の上昇にとどまらない影響をもたらす。

大西洋からインド洋を渡って太平洋へと、巨大な深層海流が流れている。これはグリーンランドの氷原の一部が解けて真水のかたまりとなり、海深く潜って海流となっているものだ。この深層海流が、地球の気候の安定化に決定的な影響を及ぼしていることが、近年の研究でわかってきた。この海流があるために、海水温度の安定化効果が働き、結果として地球全体の気温が安定してきたというのだ。

この深層海流が生じたのは今から1万年前、つまり地球が今のような状態になったと期を同じくしている。逆にいえば、この海流が生じたために、地球は今のような気温の状態になり、以来1万年の間安定した気候を保ってきたのである。地球の歴史の上でも、同じ気温が1万年もの間続くことは珍しいことだという。

グリーンランドの氷原が溶解すると、当然深層海流も消滅の危機にさらされる。深層海流がなくなればどういうことになるか。シミュレーションによれば、地球の寒冷化現象が生ずるのだそうだ。場合によっては、北半球の広い部分に渡って氷河が出現する可能性もあるという。

そのメカニズムは、筆者のような浅学にはよくわからぬが、地球温暖化の究極の結果が新たな氷河時代の到来とは、皮肉なことではある。







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作者:壺齋散人(引地博信) All Rights Reserved (C) 2012
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