地球と宇宙の科学
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ジオ・エンジニアリング Geo-Engineering:地球の人工冷却


地球の温暖化がいよいよ待ったなしの段階になってきた。CO2削減の国際的な取組を尻目に、毎年のCO2排出量は減るどころか増え続けている。このままだと、今世紀の末には地球の気温は今より2度ないし5度上昇する。5度も上昇したのでは、海面が上がって陸地の多くが水没するばかりか、生命自体が生息困難になるだろう。

こんなシナリオが現実味を帯びてきたのは、地球温暖化のプロセスが予想を超えた勢いで進んでいるからだ。単に現在の地球上にあるCO2に、人間の活動から排出される新たなCO2が加わるだけではない。温暖化によって極地の氷が解け、そこに閉じ込められていたCO2が染み出してきたほか、海面温度の上昇が大気の温度を上げる効果も加わって、地球の温暖化が加速度的に進んでいるのだ。

こんな状況を前に、科学者の間では、ジオ・エンジニアリング Geo-Engineering に関する熱い議論が交わされているという。

ジオ・エンジニアリングとは、人工的な手段によって、地球を冷却させようとする技術である。冷却の方法としては、地球の温度のエネルギー源である太陽光線をシャットアウトすることや、大気中のCO2を回収してそれを液状に変え、地中に封じ込めるといったことが考えられている。いづれも地球を人工的に冷却することで、温暖化の恐怖から逃れようとするのを目的としている。

一昔前なら、こんな発想は荒唐無稽なものとして、相手にされなかったに違いない。だが1990年におきたフィリピンのピナトゥボ火山の噴火が、この考えに俄然現実味を帯びさせた。

ピナトゥボ火山の噴火によって排出された火山灰は地球の表面を覆い、それが太陽光線をさえぎる役割をした。その結果地球の温度は0.5度下がったのだ。科学者たちはこれを教訓にして、もし火山の爆発に似た現象を人工的に作り出せれば、地球の温度を下げることができるに違いないと考えたわけだ。

科学者たちが想定しているのは、火山灰に似た物質、つまり硫化物を地上から大気圏に向けて噴出させることだとか、ロケットからばらまくといったことである。科学者たちによれば、この方法は、目が飛び出るほど高い経費はかからない。むしろ京都議定書が要求しているCO2削減策に比較してずっと安い。

ただ副作用はあるそうだ。ピナトゥボ火山の後遺症として、オゾン層が破壊され、南半球を中心に多数のオゾンホールが生まれたことが指摘されているが、同じような事態が起きる可能性は非常に大きい。オゾン層が破壊されると、人間は有害な紫外線に直接さらされるようになる。

水爆の製造で知られるテラー博士などは、別の方法として、太陽光線を反射させるような金属を大気中に配置したらどうかと提案している。だがそんな金属が地球の表面を覆ったら、太陽エネルギーの一部をカットできるかもしれないが、別の面で地球への副作用があるだろう。ガス状の物質に比べると、金属は地球に蓋をするのと同じ効果があるから、その直下にある地表部分には陽光がささないだろう。

こうしたわけで、もうひとつ大きな流れとして注目されているのが、大気圏中のCO2の回収策だ。地球自体、長い時間をかけて、大気中のCO2を南極の氷の中に封じ込めてきた歴史をもっているが、これを人工的に再現しようというのだ。封じ込めの方法にはいろいろあるらしいが、問題は液状化したCO2を閉じ込めるための、物理的な空間が地下に確保できるかどうかということらしい。

現在国際社会が取り組んでいるCO2削減のための努力は、大気中のCO2をこれ以上増やさないという効果をもつが、それが実現したからといって、CO2が現状以下に減るわけではない。今の状態でも地球の温度は十分に上がっている。できうればもう少し下げたほうがよい。そのためにはやはり、ジオ・エンジニアリングのような方法を講じる必要があるともいえる。







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作者:壺齋散人(引地博信) All Rights Reserved (C) 2012
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